昔の同僚と久々に会って考えさせられた話。
6年前、黒川君(仮名)とわたしは一緒の職場で働いていた。その頃は、毎日毎日お互い愚痴を言い合っていた。
なぜなら職場環境が悪すぎたからだ。
いわゆるブラック企業ってやつだ。大手IT企業だが、サービス残業や休日出勤はざらだった。わたしも仕事が終わるのが、午前1時になるようなこともあった。
マネジメントができないマネージャーばかりで、恫喝するようなやり方でしか、下の人間をコントロールできていなかった。
とうぜん精神的、肉体的に壊れて休職するひとが続出した。それでも悪環境が改善されることはなかった。欠員が出ても代替要員は来ない。残ったひとたちの負担が増えていくだけだった。
優秀なひとたちが、まるでボロ雑巾のように使い捨てられていった。
「もうこれ以上ここにはいられないな」 わたしはそう思って転職した。
黒川君は会社に残った。「いいなあ。俺も会社やめたいなぁ。通勤に2時間もかかるし、趣味のテニスだって月に1回もできないし、給料もここんとこずっとあがらないし。。。」と送別会でしきりに言っていた。わたしは転職エージェントの連絡先を黒川君に伝えておいた。
ちいさくなった黒川君
転職後は少なくとも職場環境は改善された。給料は前より上がったし、ほぼ毎日定時で退社している。
プライベートに余裕ができた。ジムに行って体を鍛えたり、セミナーや勉強会に出たり、「自分のための投資」ができるようになった。結婚もした。フルマラソンにも2回出た。将来のための資格も取った。おっかなびっくりだけど資産運用もはじめた。
そんなとき6年ぶりに黒川君と飲むことになった。
ひさびさにあった黒川君を見て、わたしは少し驚いた。(顔には出さなかったけど)
ちいさくなっていたのだ。
物理的に背が縮んだとかいうわけじゃない。花瓶に長いことさしてあった花がしぼんだような感じだった。すり減ったという表現が一番正確かもしれない。
お酒の席では、6年間の空白を埋めるように、お互いの身にあったことを話し合った。
黒川君の話を聞いているうちに、わたしは怖くなった。
職場環境はフリーズドライされたように、6年前とそっくりそのまま変わっていなかった。黒川君はその職場に毎日2時間かけて通勤し、月に1回もテニスができず、給料もあがらない生活を送っていた。黒川君の生活も6年前とそっくりそのままだった。
ここ最近何か始めたこととかないの?と聞いてみた。
「新しいことなんか何もないよ。」黒川君は不思議そうな顔で答えた。
「何でそんなこと聞くの?」と言いたそうだった。
成長は時に残酷である
2人で話している時に、黒川君に「元気ないね」と言われた。
無いのは元気じゃなくて、君への興味なんだ。ごめん。
もし わたしが6年間なにもトライせず、あの職場に残っていたら、黒川君と仲良く愚痴を言い合っていたかもしれない。
でも実際は、この6年間、黒川君は時が止まったような世界に住んでいて、わたしは1ミリでも改善の余地があれば頭から突っ込むように生きてきて。
話が合うわけないし、興味が湧く訳もない。
成長は時に残酷なものだ。
鏡の国のアリスで、赤の女王様が「同じ場所にとどまりたければ全速力で走らねばならない」と言うシーンがある。
それと同じで、現状維持を良しとしていると、いつのまにか周りから取り残されてしまう。なぜなら周りのひとたちは全速力で動いているから。
絶えざるトライアル&エラーを続けて成長しているひと、自分が周回遅れであると気づいてさえいないひとが同じ場所にいるわけがない。
「また飲もうね」って黒川君に手を振った。
もう会うことはないだろうなと思いながら。