おにぎりだもの

よしなしごとをつづっています。

最後の決闘裁判 2時間32分をかけて、「男はバカ」を描く映画

映画館で「最後の決闘裁判」を観たので、感想をまとめておく。

ネタバレ満載なので、まだ映画を観ていない人は、この先は読まない方が良い。

 

最後の決闘裁判 洋風羅生門と見せかけて

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©️20世紀スタジオ

 

14世紀末のフランス。ノルマンディーの騎士、カルージュ。その友であり従騎士ル・グリ。カルージュは熱血で正義感に溢れる戦士。一言で言うと脳筋。ル・グリはハンサムで頭もよく、世渡りも上手いタイプ。不器用なタイプのカルージュをル・グリは何かと気遣う。カルージュはその正直すぎる性格ゆえに、領主であるピエール伯の不興を買い、不遇の生活を送ることになる。そのカルージュを支えるのは美しい妻、マルグリット。

 

ある日マルグリットはル・グリに襲われたと主張する。カルージュは誇りをかけて、ル・グリと真剣を用いた決闘裁判に臨む。

 

この映画は決闘の準備シーンから初まる。そしてカルージュ、ル・グリ、マルグリットの3人がそれぞれの視点から、決闘に至るまでに何が起こったのかを語る。こう書くと、芥川龍之介の「羅生門」を思い起こす人も多いだろう。確かに語りの構造は「羅生門」と同じだ。しかし「羅生門」では3者3様の語りが存在するだけで、何が事実だったかはハッキリしない。しかし「最後の決闘裁判」では事実は一つだけだ。

 

カルージュとル・グリの間には確執があったが和解した。ル・グリとマルグリットの間には合意なき性交があった。これが事実だ。3人のそれぞれの視点で語られる「一つの事実」は、視点を変えれば若い娘が老女になる騙し絵の様に変化していく。

 

特に最後に語られるマルグリットの「真実」は、カルージュが名声欲に囚われ、ル・グリが性欲に振り回され、彼女を欲を満たすだけの道具として扱っていることを明らかにする。男たちは剣を交える。肉を切られ血を流す。しかしそれは何のための戦いか。マルグリットのためではないのは確かだ。もしカルージュが負けたなら、マルグリットは生きながら火炙りにされてしまうのだ。無意味な欲がたどり着いた先の決闘場で、男たちが向かうその先に待つのは逆さ吊りにされた敗者の死体。彼女が向かう先に待つのは焚刑場なのだ。

 

勝利の後に掲げられた血まみれの剣を、マルグリットは何も言わずにただ見つめる。

 

ここまでが、ざっくりのあらすじ。思うに「男はバカ」と言うことを丁寧に描いた映画なんじゃないかなぁ。カルージュもル・グリも愛を口にしながら、マルグリットの気持ちなど1ミリも省みなかった。そして最後には2人で殺し合いを始める。バカすぎる。

 

私ならマルグリットの「真実」をこう描く

正直、リドリー・スコットが描くマルグリットの「真実」はもっと派手でもいいんじゃないかなと思う。カルージュとル・グリ、それぞれの話と180度くらい違う方が面白い。だからマルグリットの「真実」を創作してみた。(時代考証ゼロ)

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カルージュは死の床にある。マルグリットは横たわる彼の側に静かに座っている。

「マルグリット、最期に聞かせてくれ、私との人生は幸せなものだったか?」

「どうしてそんなことを聞くのです?」

カルージュは浅く息を吐く。

「ル・グリを決闘で殺してから、ずっと不安だった。私はお前を幸せにしてやれているのかと。お前と息子を愛すれば愛するほど息子が実はヤツの子供なんじゃ無いか、お前の心は本当はヤツのものなんじゃ無いかと猜疑心に苛まれた。私が、そんな疑いと嫉妬に満ち満ちた私が、お前のそばにいることでお前を苦しめているんじゃないかって。。。」最後は弱々しい嗚咽のために途切れてほとんど声にならない。カルージュの目から涙が溢れ出す。彼にはもう涙を拭く力も残っていない。

 

マルグリットはレースのハンカチで優しくカルージュの涙を拭う。

「私があなたのために苦しむ?そんなことあるわけないわ。」

そして彼の髪を優しく撫でて微笑んだ。

「あなたが私を苦しめたり、幸せにしたり、そんなことができるわけないわ。」

カルージュは目を見開いた。

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舞台はル・グリがマグリットが1人残された城に押し入ってきた「あの日」に戻る。

 

ル・グリはひざまづいてマグリットをかきくどく。

「貴方を愛している。貴方は誰よりも美しい。貴女のためなら私の全てを捧げてもいい。貴方の夫は貴女を幸せにできない。」

「夫は私を養ってくれているわ。」

「でも足りないでしょう。暮らしぶりを見ればわかる。私なら貴女を幸せにできる」

 

マグリットは両手を上げて宙を仰ぐ。しばらくそのままの姿勢で止まり、その後ゆっくりと両手を頭の後ろに回して一つに結ばれた髪を解く。階段を数段上り、出窓の縁に座ったマグリットはル・グリを見下ろす。

 

「子供の頃、父が一番大きな木にブランコを作ってくれたの。そこで遊んでいるときは幸せだったわ」

ル・グリは一瞬面食らうが、すぐに気を取り直し、大きく微笑みながらマグリットの方に一歩踏み出す。

「貴女のために、私の領地の一番大きな木にブランコを作りましょう。貴女のために日差しや雨を避けるための東家を作りましょう。貴女のためにブランコの周りは四季とりどりの花で、東家はお茶とお菓子で満たしましょう。」

マグリットは両手を膝に置いたまま、出窓に寄りかかる。

「ブランコはまだあるはずよ」

「貴女のお父上の領地に?」

「私の持参金になるはずだったのに、地代の代わりにとあなたが父から奪った領地によ」

ル・グリの微笑みが凍りついたのを見てからマグリットは続ける。

「あの土地を私に返してくださらない?私の幸せはあそこにあるの。そうしたらあなたの愛に応えるわ。カルージュの名を捨てて、あなたの妻になるわ」

「しかしそれは。。。」

「私のために全てを捧げるとおっしゃったわ。」

ル・グリは歯を見せて笑った。

「ええ。喜んで。貴女が欲しいというなら、どんなものでも差し出しましょう。あの土地に貴女の幸せがあるなら、貴女のものになるべきですから、すぐにでも名義を書き換えましょう」

 

息を荒げながらル・グリはマグリットの肩を抱こうとした。ひらりと身をかわしたマグリットは階段を駆け上って寝室に逃げ込む。扉が閉まり切る前に走り込むル・グリ。

2人は睨み合う。「逃げれば追うだけだ」ル・グリは笑う。

 

マグリットは暖炉の薪を手に取った。その先端は赤く燃えている。

「どうしても私にねじ込みたいとおっしゃるのね。それくらい野良犬だってしますよ。騎士の誇りはないのかしら。」薪をベットの上に投げ出す。

「何をする!」

ル・グリはシーツで薪を押さえつけ、足でなんとか火を消し止める。その間にマグリットはもう一つ薪を手に取り、扉の鍵を閉める。かんぬきを背に彼女はル・グリに向き合った。

 

「愛には犠牲がつきものですわ、従騎士ル・グリ。あなたがこの場で想いを遂げたいというなら、私はこの屋敷に火を放つ。あなたの命を代償に、私が焼け死んで屋敷が燃え落ちるまで楽しめばいい。火を放つ前に私は自分の顔を焼きますけどね。焼け爛れた私の顔を見てもあなたの激情は消えないかしら。」

「やめるんだ」

汗と怒りに塗れた顔の真ん中でマグリットの目は金色に輝いている。腕をゆっくり動かすと薪が爆ぜて彼女の金髪を焦がした。髪が焼ける匂いが部屋に充満する。

「やめてくれ。頼む」

マグリットが少し左にずれた。

「と、と、土地は貴女のものだ。正式に名義を書き換える。そして貴女を妻に迎える。それまで貴女には指一本触れない。貴女は気高く美しい女性だ。一時の激情で貴女を穢すようなことはしない」

マグリットは後ろ手でかんぬきを外した。

「お待ちしておりますわ従騎士ル・グリ。その時には私にもあなたを受け入れる準備ができていることでしょう。」

 

ル・グリは部屋から飛び出して階段を転げ落ちるように走り去った。

 

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「後はあなたもご存知ですわね。ル・グリはあなたに土地を贈った。友情の証として。本当は間接的に私へ贈られたものでしたけど。そして私はル・グリを強姦罪で訴えた。あなたは決闘裁判で彼を殺して勝訴した。」

「なら、息子、息子はやはり私の。。」

マグリットは微笑みを消して鋭く答えた。

「あの子はル・グリの子供ではありません。そしてあなたの子供でもない。」

 

カルージュの表情は安堵から恐怖へ変わった。浅く早い呼吸音が部屋に響く。

 

「あの子はピエール伯の子供です。寵臣ル・グリをあなたが殺した後に、なぜピエール伯があなたに報復しなかったと思うのです?私のお腹の中にピエール伯の子供がいて、彼が私を愛していたからですわ。私を正妻として迎えるわけにはいかないから、あなたを厚遇することで私と息子を守っていたのですよ。

 

読み書きもできない、計算もできない、戦術を考えることもできない、人心を読んで世渡りすることもできない。そんなあなたがどうやって私を幸せにしたり苦しめたりできると思ったのですか。

 

私はあの土地が欲しかった。父がル•グリに奪われて、あなたが奪い返すことができなかったあの土地が。だからル•グリを挑発してあの土地を差し出させた。後でル•グリに暴行されたと言えば、あなたがどんな方法を使っても彼を殺すだろうことは分かっていた。あなたは誇り高い騎士で(鼻を鳴らして笑う)ル•グリより剣の使い手としては数段上でしたもの。そして私はピエール伯と通じることで、決闘裁判に勝っても負けても生きながらえるための保険をかけた。

 

あなたは最初から最期まで剣を振り回すことしかできない男だったのですよ。そんなあなたがどうやって?」

 

もう何も聞こえない。カルージュはただベットの天蓋を見つめている。

 

マグリットは手鏡をとってカルージュの口元に持っていった。手鏡の表面は銀色に輝いたままだった。マグリットは空いている方の手でそっとカルージュの瞼を閉じてやった。

 

寝室から出てメイドのアリスから息子を抱き取る。「宣教師を呼んでちょうだい。」

アリスは息を呑んだ。「では旦那様が。。。」

息子が泣き出した。「お父様、死んじゃったの?」

マグリットは息子の背中を撫でながら耳元に囁いた。

「お父様は眠るように静かに亡くなられたわ。それほど苦しまなかったはずよ。今まで通りお母様が坊やを守るから、何も心配しなくていいのよ。」

「だってお母様は剣が使えないじゃないか。」

マグリットは息子の額に口づけした。

「剣を使う以外の戦い方もあるのよ」

アリスはマルグリットを真っ直ぐに見ながら言った。「奥様は賢くて強い方ですわ、坊っちゃま。」

 

女たちは頷き合った。

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数年後。。。

 

マルグリットは広大な領地の女地主として君臨する。馬の養殖も手掛ける。領地に住む貧しい農民の娘たちを雇い、読み書き算盤を教え、各自が農場や牧場経営をできるまでに育て上げ自活の道をつけてやる。ある日、発情期の種馬が激しく暴れ出した。牧場の柵に激突し続ける馬に少女たちは怯えている。マグリットは下男に命じて馬を鞭打たせる。

 

鞭打たれ逃げ回る種馬を前に、マグリットは快活な笑顔で少女たちに言った。「種馬ってね、たいていバカなのよ。」